こんにちは。医療法人かがやき 総合在宅医療クリニック 院長の市橋と申します。

今回、新しい拠点の象徴となる「薪ストーブ」への支援をお願いするにあたって、僕たちのクリニックの過去とこれからについてまずはお話させてください。

目次

1 なぜ新しい拠点が必要なのか。

2 どんな拠点にするのか?ご縁でつくっていく。

3 健康な人も、病気の人も、介護する人も、医療者も。薪ストーブを囲んで語りあおう。

4 なぜクラウドファンディングで薪ストーブを買いたいのか。

5 大学生インターンシップのふたりから見た「在宅医療」。

 

はじまり

1 なぜ新しい拠点が必要なのか。

僕たちは、2009年に岐阜県羽島郡岐南町で在宅医療専門クリニックを開業しました。「希望する在宅生活を安心して送れるように支援します」を理念に掲げ、病いを患う方や、共に暮らすご家族おひとりおひとりが自分の人生を輝かせられるよう、24時間365日お手伝いしています。

開業当初、スタッフは3人。僕と2人の看護師だけ。

患者さんは1ヶ月に4人だけでした。ヒマすぎて「いずれテレビの取材がくるから、練習しておこう」とインタビューの練習までしていたのが今では笑い話です。(3年後には本当に取材されましたが、練習が生きたかどうかはわかりません)

そこから少しずつ患者さんもスタッフも増え、今では患者さんの数は常時200名以上、スタッフは34名。医師、看護師の他に、音楽療法士、管理栄養士、言語聴覚士、歯科衛生士、理学療法士とさまざまな職種が揃いました。僕達や地域の未来を考えて動くプロデューサーもいます。

開業以来、僕たちは元アンティークショップだった黄色い小さな貸し家を拠点にしていました。

けれども、狭い!アジアの留学生の方々12名が研修にいらっしゃった時には、このありさまです。

みんなでひっつきながら仕事をするのは、嫌いじゃありませんが研修に来ていただいた方には、せめて朝のカンファレンス時は座ってもらいたい。(この時には、椅子を置く場所もなく立っててもらいました)

人が出入りする玄関横に置かれたソファでは、ご家族に悩みを打ち明けていただくわけにはいきません。

そこで、一念発起!全額借金で、新社屋を建てることにしたのです。

 

2 どんな拠点にするのか?ご縁でつくっていく。

せっかく建てるなら、どんな社屋がいいのか?最初にしたのは「ファシリテーター」を呼んでくることでした。

Photo: 後藤武浩(ゆかい)

西村佳哲さんです。知る人ぞ知る地域づくりのファシリテーターですが、僕たちはそれを知らずに「居場所 デザイン」という検索ワードで引っかかった彼に連絡をとり「新社屋を作りたいんですが、ファシリテーターをしてください」と依頼したのです。

「そのキーワードが面白い」と西村さんは快諾してくれました。新しい社屋にはみんなの思いを込めるために、みんなの話を引き出してくれて整理してくれる人が必要だと思ったのです。そして、何度もワークショップを重ねてきました。

「地域とのつながり」「みんなの集まる場所」「おしゃべりカフェ」「顔の見える関係」「コンサート」…。そんな言葉が並びました。

実は、在宅医療の診療所には大きなスペースは必要ありません。機能的な事務所さえあればいいのです。けれどもスタッフ達は「多くの人に集まってもらえる場」にしたい、と言うのです。

西村さんが建築家を紹介してくれました。

安宅研太郎さんです。どんどん要望が出てきたり、スタッフの中にも思いの違いがあったりと、いろいろありましたが、僕たちの思いを汲んだ設計をしてくれました。

 

 

安宅さんが連れてきた微気候の清水敬示さんと、造園家の田瀬理夫さんをつれてきてくれました。

微気候で風の通りが計算された新しい社屋には、大型エアコンがありません。

田瀬さんが「その地域の樹木を使って生態系を大切に」と言うから、去年の秋にはみんなで金華山に登ってどんぐり1000個拾って植えました。

 

スタッフが毎日大切に水をあげてくれたから、無事に冬を越え、たくさんの芽が出ました。ご縁がご縁を生みながら、新しいご縁を生み出す在宅医療の基地が完成しようとしています。

 

3 健康な人も、病気の人も、介護する人も、医療者も。薪ストーブを囲んで語りあおう。

新社屋の中心はコモンリビングとオープンキッチン。掘りごたつのある和室と縁側、2階にはセミナールーム。

健康な人も、病気の人も、介護する人も、医療者も、研修者もいろんな人が居合わせてもお互い気にならないような温かい空間をつくりたいと思っています。

その真ん中には薪ストーブ。薪ストーブの火には、普段語らない人を饒舌に語らせたり、ふと本音を吐かせたり、一緒に囲んでいるだけで心を通わせたりする、そんな不思議な力があるような気がします。

そして、何よりストーブがあれば、料理ができる。クリスマスにはターキーの丸焼きもできる。それをみんなで食べながら、病気について、人生について、死について語ろう。全国から研修にくる医療者たちとは在宅医療の未来を語ろう。時には大笑いしながら、生きていることの素晴らしさを実感したい。

病気を治すことが医療者の仕事だと思うと治せない病気の人を前にした時、僕たちは敗北感を感じ無力になるだろう。けれども、人の幸せを最大化することが医療者の仕事だと思うと、在宅医療でできることは限りなくある。こうしてリビングで火を囲んで楽しいひとときを過ごすことも大切なひとときになるでしょう。

僕たちは、今までもこうやって遊んできました。これからはもっと多くの人たちと、薪ストーブを囲みながら、新社屋で遊びたい。

 

4 なぜクラウドファンディングで薪ストーブを買いたいのか。

大きな借金をして土地を買い、建物を建てたわけだから、正直いうと120万円の薪ストーブと、30万円の設置代も借金でまかなうことはできます。(そして実は完成時にはすでに薪ストーブは入っています)

でも、あえてこの基地の象徴となる「薪ストーブ」だけはみなさんの力を借りて買いたいと思ったんです。この新社屋には、すでに多くの人たちの縁や知恵や力を借りています。できればもっと多くの人たちを力を借りたい。

みんなでどんぐりを拾って、毎日水を上げたり、成長を喜んだり、そういうことでどんぐりへの愛情がどんどん大きくなっていきました。愛情とは、そういうものかもしれません。ただ与えられるのではなく、自分たちで手をかけて育てていくから、より愛情が強くなる。

だから、薪ストーブは、多くの人の力を借りて、多くの人たちおかげでそこにあってほしい。みんなに「どれどれ、私のストーブは使われてる?」と見に来てほしいと思っています。

今はまだ建築中だけれど、ここにたくさんの人が集まって「この薪ストーブは私が買ったのよ」と自慢話しをしてほしい。薪ストーブ120万円、設置費用30万円。「これがないと誰かが救われない!」というような切迫した危機感はありません。ただ「健康な人も、そうでない人も。みんなでつくる、みんなのための場所」そんなあたたかい物語に賛同していただければ、ぜひこのプロジェクトに参加していただきたいのです。

そして岐阜県羽島郡岐南町、名古屋駅から電車で25分、名鉄笠松駅から徒歩10分。2017年11月から稼働しはじめる私たちの新社屋に来てください。

 

5 大学生インターンシップのふたりから見た「在宅医療」。

そして、最後に今回のクラウドファンディングに協力してくれた大学生インターンシップのふたりからひとことずつ。

FacebookもTwitterもやってないという佐久間くんと、検索はGoogleじゃなくてInstagramを使うという加藤さん。慣れない中で本当にいろいろと頑張ってくれました。 

◎薪ストーブの力と在宅医療には似ている点があります。 それは、思いがけない出来事を引き出す力です。 薪ストーブは、炎の癒し効果によって心も体もほぐし、その近くに集まりたい、周りに腰を下ろして話をしたいと思わせることで、新しい交流・新しい繋がりを引き出す力があります。

一方、在宅医療は、自宅療養であることが、患者の希望を引き出す力になっています。 患者は、医師や看護師を何度も自宅に招き入れることで、「医師と患者」の関係が「友人同士」のような感覚になることがあります。この「友人であり医師」という存在には、家族に対しては、言いにくいことも相談しやすいかもしれません。 そして、自宅という場で療養することは、普段から住み慣れた環境で自分らしい生活ができ、家族や友人にも会うことができます。 だからこそ、残された時間の中で、「不可能と思っていた希望」「本人でさえも気付いていなかった希望」が生まれ、それが生きる活力・生きる目標になると思います。                            大学生インターン 佐久間一輝

 

◎私が生きてきた20年間を思い返すと、いつも親の支えがありました。その中で、どう頑張ってみても思い出せない時期があります。それは、私が産婦人科のエコーに写り自分という存在が医師により認められたときから幼児期までの記憶です。一方、親は私の記憶にない「あの時」を鮮明に覚えています。それは、出産に至るまでの不安、出産してからは私の熱、痙攣、言葉が通じず泣くばかりの子育ての苦労です。

在宅医療という現場を初めて見て気づいたことがあります。

親を看取るということを決断するに至るまでの不安、看取りをしていく中で親の身体機能の衰え、言葉が伝わりにくくなるなどの介護の苦労が私の記憶にない「あの時」に似ているということです。親の”最後の時間”に寄り添うということは、子と親が立場を変えてもう一度向かい合うきっかけを与えてくれる大切な時間であるのだなと思いました。

                                         大学生インターン 加藤朱里

 

今まで当院で研修したり、インターンシップに来てくれた人たちは500人あまり。これからも地域の人たちだけでなく、の海外・全国の人たちがやってくると思います。「最期まで自分らしく、暮らしたいように暮らせる」社会になるように多くの人たちと一緒に歩んでいきたいと思っています。

 

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