2018/09/01 11:43

こんにちは!長野県出身・在住ライターのナカノです。

みなさん、ぶどうは好きですか?私は大好きです!
なぜなら私の地元長野県は、全国有数のぶどうの生産地。毎年、秋になると甘くておいしいぶどうが食卓に並ぶのです。

そして長野県は、ぶどうの王様『巨峰』の生産量が全国一位!

最近では皮ごと食べられる『シャインマスカット』や

長野オリジナル品種『ナガノパープル』の登場で、ぶどう業界は賑やか。様々な品種のぶどうがスーパーや直売所に並ぶ様子は、まさに秋の風物詩となりました。

そんな中、信州のおいしい巨峰を使用した、この秋、あのお土産がリニューアルすることをご存知でしょうか? 長野県民なら誰もが一度は他県の人へのお土産に選んだことがあると言っても過言ではない信州のお土産代表格、『ポッキー 信州巨峰味』です!

このポッキー、私も大好きなんですよね。しっかり巨峰を味わえることはもちろん、『八幡屋礒五郎』の七味唐辛子、『いろは堂』のおやきと共に、県外の友達に渡すと必ず喜んでもらえるお土産なのです。

ポッキーがリニューアルされていくこの機会にあわせて、巨峰のことをもっと知りたい!そして、よりポッキーをおいしく楽しみたい!!


というわけで今回は、信州のフルーツ王国「中野市」のぶどう農家さんに、お話を聞きに行きたいと思います。

長野県の北部に位置する中野市。年間降水量が少なく昼夜の寒暖差が激しい環境は、ぶどう作りに最適なのです。

(写真左:編集者・徳谷柿次郎、写真中央:ぶどう農家・上野善久さん、写真右:ライター・ナカノヒトミ)

お話を聞かせていただいたのは、麦わら帽子がとてもよく似合う中野市のぶどう農家・上野善久さん。

そもそもぶどうってどうやってつくっているの?
どんな歴史があるの?
新品種はどうやって作られるの?
様々な疑問をぶつけていきたいと思います!


「最近人気のシャインマスカットによって、巨峰の地位は脅かされているのでは?」と考えている、本プロジェクトの担当編集者・徳谷柿次郎と共にお話を伺いました!

まずはぶどう畑を見てみよう!

まずは、上野さんの畑を案内してもらうことに。

現在上野さんは、巨峰に加えシャインマスカット、ナガノパープルという品種を作っています。

詳しくお話を聞こうとしたら、水やりの時間がやってきたということで……

うわー!

いきなりびしょ濡れだ!!

ぶどうへの水やりはスプリンクラーで行われます。めっちゃ浴びた。

収穫約1ヶ月前の巨峰は、ちょうど色づき始めた頃。日焼けや鳥から実を守るための「袋かけ」が終わったと頃です。
 

こちらはシャインマスカット! ツヤのある実は触ってみるとびっくりするほど堅い。ゴムボール? これから太陽の日差しを浴びて熟していけば…私たちが知っているあの甘い果実に変わっていきます。楽しみ。

巨峰の収穫は9月中旬頃。シャインマスカットはそれよりも少し後の、9月下旬に収穫されたものがおいしいそうです。

上野さん「これは、4月に植え付けたシャインマスカットの苗です」


ナカノ「まだ全然小さいですね!」


上野さん「苗を植えてから3年で実がなり始め、安定して出荷できるようになるには5年かかるんですよ」

おいしいぶどうを実らせるために「副梢(ふくしょう)処理」という作業を施します。余分な枝を切って果実に光を入れる重要な工程です。

一通りぶどう畑の案内をしてもらってから、ご自宅でお話を聞かせてもらうことになりました!

小粒から大粒へ。「巨峰」はぶどう界の革命児!

柿次郎「早速色々お聞きしていこうと思います。上野さんは、いつ頃からぶどう作りをされているのですか?」

上野さん「ぶどう作りを始めたのは昭和40年代前半です。明治初期から中野市周辺は、養蚕(ようさん)業が栄えた土地で、お蚕さんが食べる桑の栽培を大規模に行っていたんですよ」


ナカノ「へー!この辺りは桑畑だったんですね」

上野さんのお宅にも、養蚕の名残である立派な繭蔵がありました。蚕を育てていた繭蔵は現在、収穫した果物の荷造りをする場所として使われています。


上野さん「欧州から日本にりんごやぶどう、ももなどの苗木が入ってきたのが明治初期。その頃は桑畑の隅に果樹の苗を少しだけ植えていて。この辺の果樹栽培が盛んになったのは、明治の後半になってからですね」


ナカノ「最初はどんな種類のぶどうが作られていたんですか?」

上野さん「この辺りだと『善光寺ぶどう』という品種が主流だったみたいですね。小粒で、食べるととてもすっぱい。今みたいに甘くておいしく食べられるようなものじゃなかったんです」


柿次郎「へーー。ぶどうって小粒なイメージが強いです。昔、給食で出ててきた小さなぶどうをチマチマ食べてた記憶が……」

上野さん「『善光寺ぶどう』は粒は小さいけど、房はこんなに大きいんですよ」

柿次郎「ええっ!? そんなに大きな房だったんですか?」


上野さん「ぶどうづくりの工程で大切な『摘粒(てきりゅう)』を昔は行ってなかったみたいです。摘粒は、ある程度成長したぶどうの実をもいで間引き、栄養を行き渡らせる作業のこと。例えば、100粒ついた実を40粒くらいまで減らすことで一つひとつの甘みが増します」


ナカノ「半分以下に!そもそも、ぶどうの実を間引いて大きさを調節してるなんて知らなかったです」

上野さん「他にも、この辺りでは『デラウェア』や『ナイアガラ』など小粒で甘い品種も作られていましたね」


柿次郎「小粒から大粒のぶどうに目が向けられるようになったのは、いつ頃のことなのでしょうか?」


上野さん「『巨峰』が誕生したことがきっかけですね」

巨峰は1945年、静岡県下大見村(現在の伊豆市中伊豆町)で農学者・大井上康(おおいのうえ やすし)氏によって開発された品種。第二次世界大戦の最中に開発が進められ、昭和30年代初頭より出回るようになりました。

ナカノ「いきなり大きなぶどうが登場してびっくりしちゃいそう」


上野さん「そりゃあみんな驚いていましたよ!巨峰の登場は、ぶどう界のひとつの革命ですね」


柿次郎「巨峰革命……!」

シャインマスカット登場で種なしぶどうがメジャーに

上野さん「それからしばらくは巨峰の需要が高まったのですが、今から10年前にさらにぶどう界を揺るがす新種が登場しました」


ナカノ「もしや、シャインマスカット……?!」


上野さん「その通り。シャインマスカットの登場によって、種なしぶどうのシェアが一気に拡大したのです」

種なしぶどうをつくるためには、まず種ができないように薬品を散布します。そして、種がなくてもおおきく育つように植物ホルモンを一房一房につけるのです。ちなみに、どちらも人体には安全ですからご心配なく。

ナカノ「確かにシャインマスカットって甘い上に種がなくて皮ごと食べられるから、今までのぶどうの煩わしさが全て解消されましたよね」


上野さん「そう! シャインマスカットの人気が高まったことで、種なし巨峰の需要が増したのです。20年前は種ありと種なしが半々でしたが、10年前にはほとんど種なしに変わっていったのです」


ナカノ「種なしブームがきたんだ!」

柿次郎「巨峰からシャインマスカットへと人々の趣向が変わっていったら、巨峰農家の方々は大変なのでは?」


上野さん「世間のニーズに合わせて、様々な品種をつくるようになっていますよ」


ナカノ「てっきり品種を絞ってつくっているのかと思いました!」


上野さん「品種によって栽培方法が大きく異なるわけではないんですよね。うちはデラウェアやナイアガラなど小粒の品種から、巨峰やシャインマスカット、ナガノパープルの大粒の品種に移行していきました」

柿次郎「でも、やっぱり今はシャインマスカットが儲かるんじゃないですか?」

上野さん 「そうですねぇ」


ナカノ「そうなんだ!」


上野さん「うちはそこまで作付面積が大きくないので、儲けはそこそこですよ(笑)。でも現在の市場価格を見てみると、シャインマスカットは巨峰の倍以上の価格になっていますね」

※取材時点で巨峰=5kgあたり10,835円、シャインマスカット=5kgあたり26,420円


ナカノ「ええっ!それは農家さんとしてもシャインマスカットを作りたくなりますね」

シャインマスカットは日持ちもバツグン。上野さんのお宅では、11月に収穫して冷蔵庫に保存。クリスマスシーズンまで保つので、長期間の出荷が可能になっているそうです。

シャインマスカットに次ぐ新品種がまもなく市場に!

 

上野さん「うちもシャインマスカットをつくったりナガノパープルをつくったりしていますが、巨峰のブランドを再構築をしていきたい思いも正直ありますね」

 


ナカノ「それはどうしてですか?」

上野さん「だって種ありの方が、種なしよりも断然コクがあっておいしいんですよ」


柿次郎「植物として種ありの果実の方が美味しそうですよね。種がある方が、生命力が強そうじゃないですか」


上野さん「高級スーパーでは種ありぶどうの需要があるので、現在でも店頭に置きたいという店があるみたいですね。例えば兵庫県の芦屋あたりのスーパーとか」


ナカノ「昔の美味しいぶどうを知っているお金持ちの人たちに需要があるんですね」

ここ10年の長野のぶどう農家のトレンドは、黒系のぶどうは巨峰からナガノパープル、白系のぶどうはロザリオビアンコからシャインマスカットへと移行しているそう。


柿次郎「ところで、今までにいろんな品種が出てきてますが、新しい品種の開発にはどれくらいの時間がかかるものなんですか?」


上野さん「約10年はかかるのではないでしょうか。二種類の品種を様々な条件下で交配させる作業の繰り返しは根気がいります。市場性があるものをつくるとなると、かなり骨の折れる作業です」


ナカノ「トライアンドエラーですね……! 新たな品種ができたら、またぶどう業界が揺るぎそう!」

上野さん「それでいうと昨年、長野県の試験場で『ブドウ長果11』という新たな品種が出来たみたいです」


ナカノ「へー! 長野で! どんな品種なんですか?」


上野さん「シャインマスカットと『ユニコーン』という黒紫色のぶどうを掛け合わせた、皮ごと食べられる品種です」

ナカノ「でも、このぶどうが食べられるのはまだ先なんですよね……?」


上野さん「ええ、5年後ですね」


柿次郎「5年後か…」


上野さん「まあ、また9月にうちへいらっしゃってください!収穫したての巨峰やシャインマスカットをぜひ召し上がっていただきたいです」

柿次郎・ナカノ「えっ、本当ですか!やったー!!」

ナカノ「そうだ! 最後に、おいしいぶどうを買う時のコツがあったら知りたいです!」


上野さん「買うときに必ず見てほしいのが軸の部分です。軸に青みがあるものが新鮮でおいしいですよ! スーパーで販売されているぶどうは茶色みがかっているものが多いので、直売所や産直センターで買うのがいいかもしれません」


ナカノ「なるほど、ありがとうございます!いやぁ、いつも食べているぶどうについて全然知らないことばかりで本当に勉強になりました!」

おわりに

常にニーズを追いかけて畑に新しい品種を取り入れていく、ぶどう農家の現状をお伝えしました。


今年もあと1ヶ月で、ぶどうのシーズンがやってきます。おいしいぶどうが食べられる9月下旬を狙って、信州・中野市に遊びに来てみてはいかがでしょうか?

上野さん「あれれ?そうそう、 このポッキーのパッケージが気になったのですが… …」

「もしや、使われている写真が巨峰じゃなくてナガノパープルじゃないですか?」

(写真左:ナガノパープル、写真右:信州巨峰のポッキーのパッケージ)

た、確かに言われてみれば酷似している!

Glicoさん、どちらなんですか……!?