2017/05/13 20:43

 

 

植田明志の代表作のひとつであり、

2013年に開催された初個展「惑星少年」の

メインヴィジュアルにも起用されたオブジェ作品「月の歌」。

今回はリターンアイテムにも登場している「月の歌」について

振り返ってみたいと思います。

 

 

 

巨大な三日月型をした金属の魚「月の歌」。

苔生した金属のような身体の背部には老人のような顔。

煙突状の部位からは煙を吹き出しているようなデティルが施されています。

作品の制作中、正式に作品名が決定する以前の呼称から、

通称"ガリレオの月"と呼ばれています。

 

 

 

 

 

 

「惑星少年」の作品たちの根底に流れるテーマ。

幼い頃への憧憬や、夢見続ける事など。。。

「惑星少年」の統括となる「月の歌」の物語も、

日常に忙殺され、夢を見ることも忘れてしまった人物が、

今際の際に、かつて自分が失くしてしまった夢の象徴 である

「ガリレオの月」に出会う場面が語られます。

 

 

 

 

 

 

「月の歌」の物語はオブジェだけに留まらず、

個展終了後にはスピンオフであるヴィジュアルノベル

「夢みる街」も描かれました。

作家自身の絵と物語による、惑星少年のアナザーストーリーです。

 

 

 

 

 

「夢見る街」の主人公は "目の国の少女”。

やがて巨大な月の魚〜「ガリレオの月」と出会い、

その目となる少女の物語が語られます。

絵本のような淡いタッチで描かれる情景と、

瑞々しい言葉で綴られる物語が心に残る

"もうひとつの惑星少年" と呼ぶにふさわしい作品です。

 

 

 

作家自身の思い入れも強い作品である「月の歌」は、

2016年開催の企画展「子供と魔法展 はじまり」で、

アクセサリーVer.も発表されました。

そのデザインの美しさからアクセサリー化の要望も多かった

「月の歌」の原型を、作家自身が新たに作り起こしたペンダントです。

 

 

 

 

今回のリターンアイテムのひとつのネックレスは

魚の目の部分に、ご購入頂いた方の誕生石をお入れし、

イニシャルを打刻する特別Ver.。

今回のクラウドファンディングでのみの限定販売となります。

 

 

 

ネックレスと同原型を用いた真鍮製オブジェのタイプ。

オリジナルの「月の歌」オブジェをイメージした本体カラーに加え

特性の台座が付属致します。

※画像は彩色イメージとなります。

作家自身による手彩色が施された数量限定の作品となります。

 

 

最後にオリジナルの「月の歌」の物語を紹介します。

私達が暮らすこの世界、ある事件で最後を迎えようとする"僕" と、

異なる時空、遠い星の少女とその大地に埋まる巨大な金属の魚。

そして「惑星少年」を構成する様々な物語の断片が集約していきます。

異なる視点と時間が幾重にも交差する物語は、

植田明志の独創的なイマジネーションが感じられるものとなっています。

是非、その壮大な作品世界をご堪能下さい。

 

 

 

 

 

 

「月の歌」

少女の表情は、相変わらず見えなかった。

それはガラス製の完全球に近いヘルメットを被っているからだ。

少女はそれを決して取ろうとはしない。

 

「それが私の国の掟だから。」

 

少女は、僕の手を取って言った。

 

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街灯に染められた血が、不規則な軌跡を描きながら踊る。

ヘッドライトが破損したであろう車は、いつの間にか夜の向こうへ消えていった。

まだ切ない香りを纏わせた風が、僕の頬を叩く。

 

なんとか仰向けに体をよじる。

僕は清々しい気持ちだった。

いつから、星を見上げなくなったのだろう。

 

ほら、星はこんなにも綺麗だ。

あの時のままだ。

あの時の僕は、何処にいるのだろう。

 

そして僕は、歌を聴いた。

 

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少女は足を止める。

「よかった。」

少女は、独り言の様に、確かめる様に呟く。

 

「彼、やっと、会えたのね。」

 

目の前に現れた巨大な建造物の様な物体。

膨大な時間をかけて大半は大地に食われ、姿を見せているのは「背びれ」の部分だけだ。

少女はまた、歌い始めた。

その姿は、何かを願っている様にも思えたし、自分自身に聴かせている様にも見えた。

霜柱を踏むようなリズム。水たまりの中の宇宙を纏った、メロディー。

この真っ白な星で、僕はずっと少女の歌を聴いていた。

 

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もう、意識はほとんどない。

体が風と、地面と、同化していく。

まだ、歌は聴こえている。

後ろに、誰か立っている。

瞼の裏が暖かい。

目を閉じて、太陽に顔を向けている様だ。

段々と白さを増していく。

暖かさは温度を増して、僕の瞼に触れた。

 

羽根の様な軽さ。

天使の様な優しさ。

そして僕は

真っ白な世界で、僕と出会う。

 

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「−−−−**********。」

 

少女の歌で目を覚ました。いつの間にか眠っていたようだ。

しかし少女の姿は何処にもなかった。

巨大な「背びれ」の姿も見当たらない。

ふと上を見上げる。

そこに、少女は居た。

 

少女は巨大な月だった。

白い煙を吐き出しながら、宇宙を舞っている。

黄金の体に星の光を反射させ、白く光った。

背びれと尾ひれは風に吹かれるカーテンの様にそれをなびかせた。

 

透明な球体の目は、少女の顔を思わせた。

少女は、自分自身が目になって、この巨大な金属の魚を導く。

少女は、自分の星を思い出したのだ。

 

星の子は、影の子に会えたのだろうか?

天使は、ちゃんと歌えたのだろうか?

雲のクジラは、今も少年の夢を願っているのだろうか?

 

星行きの飛行船となった少女は、僕のことを覚えていないだろう。

ただずっと、青の宇宙を、泳いでいくのだ。

あの時と、一緒の歌を歌いながら。