2022/03/14 08:22

いよいよ今日はフランスに旅立つ日だ。
仕事のあるNoaは、私たちよりも先に家を出た。
Noaと過ごした時間はわずかだったが、濃密な時間を共有できたと思う。

そんなこんなで朝ごはんに欠かせないのが日本から持参したフリーズドライの味噌汁だ。
息子も大のお気に入り。超猫舌なので用心に用心を重ねて味噌汁をすする。


純子は旅の荷物をまとめながら、私は最小限の機材でスペイン滞在中の写真をまとめる。
バルで乾杯した写真と、四人展のお土産セットをもってNoaと純子が写った写真をプリントアウトした。
Noaへの感謝のメッセージを添えて、鍵と写真をキャビネットの上に置いた。

Noa、本当にありがとう。


さぁ!フランスに向かって出発だ。
鉄道を乗り継ぎ、マドリード国際空港へ向かう。
世界の空港はほとんど知らないのだけれど、この空港の巨大さに圧倒されたことはすごく印象に残っている。
私たちが乗る飛行機は、これまた節約のためeasyJet。
大切なことなので2回。節約のためにeasyJetだ。
僻地のターミナルに移動するため連絡バスに乗る。


このバスがえらくコーナーを攻める。
日本のバスだったら絶対にありえないスピードでカーブを駆け抜けていく。
強烈な横Gが乗客を襲う!
・・・はずなのに皆、平然と乗っている。
車文化が進んだヨーロッパはやっぱり違うなぁ~(ホントか?)と妙に納得しながら目的のターミナルに到着。

日本からの出国と違い、今回はターミナルビルで昼食をとる時間がある。
EU圏内なので通関手続きもない。
スペインの思い出にパエリヤとコーヒーを注文し、気持ち急ぎ気味に食事を楽しんだ。


とはいえ今回はゆとりがある。
少し窮屈なエコノミーシートに乗り込み、離陸を待つ。
ベルト着用のサインが点灯した。
と、ここでまさかの拓海の超こだわりが発動。『お母さんのお膝がいい』と。
離陸の時間が迫っている。ヤバい・・・。
なだめすかすように説得を試みるが、そんなことをやすやすと聞き入れる我が息子ではない。
これは私譲り、というより輪をかけて強烈な彼の特性だ。
純子の膝に子供用ベルトで座れるようお願いしたところ、ベルトは渡さない、自分の席に座れ、とまさかの命令口調で言われる。

拓海を真ん中のシートに座らせようとするが、『お母さんのお膝がいい~!!!』と飛行機中に響き渡るほどの叫び声をあげて号泣!
こんな状況ではとても無理だと思い、機長に掛け合うよう依頼する。
しばらくして乗務員が返ってきたが、答えはNOだった。
これには私もさすがにカチンときた。

大人二人の力で我が息子をねじ伏せ、ベルトで縛りあげる。
これではまるで精神病棟で日々行われているという拘束ではないか。
しかし拓海も金切り声を上げて抵抗し体をくねらせ、ベルトからすり抜ける。
こんな残酷なことを何度か繰り返しているうちに、ベルトをしないまま飛行機は離陸してしまった。

規則を守った結果、最も危険な状態で離陸をした。これが結果だ。

子供用ベルトを我々に渡しさえすれば、ノーベルトのままより圧倒的に安全に離陸できたのは明らかなはずだ。
お前らの正義とはこれか!?と言ってやりたかった。

息子は泣き疲れて寝てしまった。
というより自分を守るためにシャットダウンしたのかもしれない。
誰がこんなhardJetを望むだろうか。

これが不信をベースにした組織の限界点だと思われる。
不信であるからこそ、ルールと苦痛、恐怖による支配をもって組織を統率せざるを得なくなり、硬直した組織ができあがる。
マニュアルに定義されていない不測の事態に柔軟に対応することはできず、最悪の事態を目の前にしながら責任をとることができない。
組織に属する人なら、誰しも思い当たるところがあるはずだ。

これが例えばリッツカールトンならどうだろうか。
私の大好きなエピソードがある。

本国のリッツカールトンには、『チョコチップクッキーアンドミルク』という、誰もオーダーしないメニューがあるそうだ。
『チョコチップクッキーアンドミルク』は、本国ではお母さんが小さな子供のために、夜のおやつとして出す定番メニューなのだとか。
その、お母さんのようなホスピタリティを、私たちは提供します。という、自らの在り方を示すメニュー。
大阪のリッツカールトンがオープンした時に、本国の常連さんがリッツカールトン大阪のホテルマンに「私はリッツカールトンが大好きなんだ」とこの話をしたところ、自分の部屋に温かい『チョコチップクッキーアンドミルク』がさりげなく置かれていた。
そんなメニュー、オープンしたての大阪にはない。
当然、クッキーも常備されてはいない。

それなのに、そのメニューが目の前に提供されている。
いちいち上司に許可を求めたり、会議に掛けたりしていては、このスピードでは提供できない。
おそらくそのホテルマンが、リッツカールトンの在り方に沿って自ら判断しサービスしたのだろう。
評判が評判を呼び、このメニューはリッツカールトン大阪の定番になったそうだ。

信頼をベースにした組織は、自立・自律を主旨とし、自ら考え、行動する。
そしてそれに対する責任も、皆で取る覚悟があるのだと思う。
そんなサービスを、私も提供したいと思った。

後編に続く