●ご挨拶

はじめまして。NPO法人POSSEの「外国人労働サポートセンター」(https://foreignworkersupport.wixsite.com/mysite) の岩橋誠と申します。POSSEは2006年に立ち上げられたNPOで、大学生や大学院生が中心となって「過労死」や「ブラック企業」、「ブラックバイト」といった労働問題に取り組んでいます。

さらに、今年、外国人労働者の受け入れ拡大を受けて、外国人向けに英語で相談を受け付ける窓口である「外国人労働サポートセンター」を立ち上げました。「外国人労働サポートセンター」は、東京と仙台の学生20人ほどが集まって、ボランティアとして、増え続ける外国人労働者に対する権利侵害(給料未払い、不当解雇、パスポートの取り上げ、労災事故、過労死、強制帰国など)の問題に取り組んでいます。

今回、皆さんにお願いしたいのは、働いていた介護施設を突然辞めさせられただけでなく、通っていた日本語学校から「強制帰国」させられそうになったフィリピン人留学生が起こす裁判に対するご支援です。

(相談対応の様子)

●増え続ける外国人労働者

今年4月、政府は本格的に外国人労働者の受け入れを開始しました。介護や宿泊業、外食といった分野において、今後5年間で約30万人以上を新たに受け入れていく計画になっています。日本で初めて「単純労働」とされる職場で、外国人が働くことが認められました。

とはいえ、「単純労働が認められていなかったというが、最近よくコンビニやファミレスで働く外国人を見かけるのはなぜ」と思いませんか。特に都心では、外国人労働者がいない店舗を見つけるほうが難しいかもしれません。実は、私たちがよく見かけるこういった「単純労働」に就いているのは、この間急増している「留学生」なのです。

コンビニや外食、介護産業は国内の人手不足に対応するために、中国や韓国、フィリピン、ネパール、ベトナムといったアジア諸国から「留学生」をリクルートして働かせています。しかし、中には「寮費無料」「食事タダ」などと騙して日本に連れてくる日本語学校や、本人の意に反して無給で働くことを強いる「ブラック」な職場がたくさんあります。今回の事件も、そういったケースの一つです。


●使い捨てにさせられる留学生
今回、私たちのところに相談に来たあるフィリピン人留学生が、通っていた日本語学校に対して訴訟を提起しました。この訴訟では、アンさん(仮名、30歳代)が、通っていた日本語学校からいわば「強制退学」そして「強制帰国」させられそうになったことに対する責任を追及しています。

アンさんは、昨年(2018年)4月フィリピンから来日し、東京・高田馬場にある日本語学校で日本語を勉強しながら、神奈川県のある老人ホームでアルバイトとして介護の仕事を行っていました。

来日前、アンさんはフィリピンの送り出し機関から、日本に行けば勉強しながら介護のアルバイトで生計を立てられるとの説明を受けていました。フィリピンで介護士と看護助手の資格を持っていたアンさんは、この介護施設の採用面接を受けて見事合格し、そこで紹介された日本語学校に通うことを決めました。自身と3歳になる息子さんの生活を良くするという「夢」を抱いて来日しましたが、その夢はすぐに打ち砕かれてしまいました。

アンさんは来日前に、「日本に行けば稼げる」「寮はホテルのよう」、そしてさらにその家賃と食費は無料との説明を受けていました。また、学校の授業で使うパソコンは無償貸与されると約束されていました。しかし、実際には、1LDKに最大5人一緒に泊まらなければいけなかった寮の家賃は月3万5000円かかり、かつ食事は自己負担でした。パソコン代も徴収されました。そのうえ、給料が支払われない「ボランティア」を、1カ月当たり30時間ほど強制させられました。

(2018年8月分のシフト表。赤く囲った部分の上段が「留学生 アンさん」、下段が「留学生(ボランティア)アンさん」とあり、この月は123時間の通常労働に加えて、37時間の「ボランティア」をしていたことがわかります)
さらに、入社時に会社から30万円を強制的に貸し付けられ、その全額が本人の手に渡ることなく日本語学校の学費に充てられました。アンさんは話が違うと抗議しましたが、日本に来て間もないため相談先もわからず、またすでに来日のために何十万円も支払っていたため拒否してフィリピンに戻る選択肢はなく、契約書にサインせざるを得ませんでした。

(アンさんが暮らしていた寮の写真)

アンさんは夜勤シフトにも何回も入り、利用者のために一生懸命働き続けましたが、賃金が支払われない「ボランティア」などはどう考えてもおかしいと会社に伝えたところ、会社は今年1月、アンさんを日本語学校の会議室に呼び出しました。社長はその場で会社を辞めるよう促した後、日本語学校職員と一緒になって、アンさんを成田空港に連れていき当日夕方の便でマニラに帰国させようとしました。アンさんは自身の寮に一旦戻りましたが、日本語学校の職員が「見張り」として部屋に入ってきて、自由に外に出ることもできませんでした。そういった状況の中、アンさんはすきを見て逃げ出し、駅をさまよっていたところPOSSEと繋がりました。

アンさんは、日本語学校から受けた偽の労働条件に対する責任、そして本人の意に反して強制的に帰国させようとした行為に対する謝罪と補償を求めて、2019年6月26日、東京地裁に提訴しました。

(2019年6月26日、提訴後に厚生労働記者クラブで記者会見を行いました。後ろにいるのはPOSSEの学生ボランティアです。)
今回の訴訟で、アンさんは以下のことを求めています。
①「 強制退学」・「強制帰国」に対する補償
②退学処分を言い渡した後に、寮の本人の部屋に日本語学校職員が「逃亡」しないように見張っていたことに対する、住居侵入・監禁行為などの行為に対する補償

●トラブルに直面した外国人を支援するために 「相談窓口」と「アウトリーチ」の必要性

私たちは、アンさんの支援を通じて、新しい課題に直面しました。それは、困っている人ほど、支援機関に繋がれないという課題です。

賃金の未払いや契約内容の変更といった被害に遭う外国人は、日本に来てまだ日がたっておらず、さらに日本語でのコミュニケーションも十分でないケースが多々あります。さらに、こういった最も不利な立場に置かれていればいるほど、被害を受けても声をあげられないという現状があります。

普段から「ブラック企業」や「ブラックバイト」などの労働相談に対応しているPOSSEは、外国人向けの窓口に、電話とメールおよび面談を英語で行う「外国人労働サポートセンター」を発足させました。この窓口では、英語で相談を受けられる学生・社会人スタッフが、相談受付から法的なアドバイス、行政への手続き同行支援など、相談者に必要なサポートを個別に行います。

「外国人労働サポートセンター」の取り組みの新しい点は、学生がアウトリーチ活動を通じて、被害を発掘し解決まで支援していくという点です。というのも、困っている外国人からの電話やメールを待っているだけでは不十分で、むしろ、支援者側が相談呼びかけのための街頭行動やチラシ配布などを通じてアプローチしていかなければ、最も不利な立場に置かれている人を支援できないからです。

(学生ボランティアが街頭で留学生に聞き取り調査をしています)

アンさんも会社や学校に対して不満を持っていながらも、結局最終的に追い出されるまで助けを求めることができませんでした。

このような状況において、このプロジェクトを通じて達成したいミッションは、次の3つです。

① 訴訟を通じて、侵害されたアンさんの権利を救済すること
②同じようにトラブルに巻き込まれた外国人が困ったときに相談できる無料窓口を作り、アウトリーチ活動を通じて外国人の権利行使を支えていくこと
③日本人、外国人に関わらず、差別されずに誰でも安心して働ける職場を作ること


資金の使い道

1.訴訟実費(※今回頂いたご支援は、弁護士に対する報酬には使いません)
・原告・弁護団・証人の交通費
・印刷費
・学者意見書費用
など

2.相談・アウトリーチ活動に関する費用
・WEBサイト制作費
・デザイン費用
・イベント開催費
・広報費
・調査・研究費
・翻訳費
・事務員人件費
など

3.手数料
・GoodMorning掲載手数料
・GoodMorning決済利用手数

●担当弁護士からのコメント

指宿昭一弁護士(暁法律事務所、外国人労働者弁護団代表)

不当な目にあっても泣き寝入りしている外国人は多いと思います。外国人の人権を守るためにも、ご支援お願いします。

明石順平弁護士(弁護士法人鳳法律事務所、ブラック企業被害対策弁護団)

たくさんの外国人の方々が酷い状況で働かされています。便利な生活の裏に外国人の方々の犠牲があります。本件はその問題を世に問うものです。ご支援お願いします。


●みなさまへのお願い


外国人が職場で差別され、権利が侵害されたとしても、声を上げるのは日本人以上に大変です。自身の被害を日本語で相談するのは非常にハードルが高く、適切な相談窓口を見つけられずに泣き寝入りしている外国人がたくさんいます。

日本で真の共生社会を築いていくためには、誰もが安心して働くことができる社会を目指すことが必要です。私たちはこの訴訟を通じて、外国人の働き方全体に一石を投じたいと思っています。

大きなムーブメントを作っていくために、今回みなさまから頂いたご支援は、外国人労働者向けの相談窓口の設置・維持、ホームページの作成、相談にかかる諸費用(交通費、資料印刷代など)、啓発のためのイベント開催費といった活動に充てさせていただきます。

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(2020年9月1日追記)

本件訴訟については、2020年8月28日、無事に和解が成立し円満に解決いたしました。なお、訴訟においては、原告であるアンさんの主張と被告である日本語学校の主張には対立がありましたが、この対立点について、裁判所が何らかの判断をしたということではありません。

主に、以下の点については、本記事の記載と被告の主張は異なっています。

⑴ 「退学処分」という記載

 被告は、原告の退学理由は介護施設での労働問題と無関係であり、また強制的に「退学処分」をしたものでないと主張しています。

 確かに、原告は「退学届」に署名をしているので、説得に応じて合意に基づき退学したようにも見えますが、私たちは、被告から退学にすると言い渡され、署名をせざるを得ない状況においこまれたからであると考えています。

⑵ 「強制帰国」という記載

 被告は、原告に対して、「強制帰国」をさせようとしたということを認めず、帰国するように口頭で促し、強制力を働いた事実はないと主張しています。

 これは、被告の行為についての評価の違いだと思います。私たちは、被告は、原告に対して、意に反して帰国をさせようとして不当な圧力をかけたものであり、これは「強制帰国」と評価できると考えます。

⑶ 「監禁」という記載

 被告は、被告の職員たちが、原告を「監禁」したということを認めず、原告の帰国時の荷物の相談や買い物の手伝い等のために寮の原告の部屋にいただけであり、原告は自由に電話をかけることもできたし、買い物に行くために外出することもできたのだから、監禁には当たらないと主張していました。

 確かに、アンさんは、買い物をするために寮の部屋から出ていますが、その際、被告の職員が同行しており、被告の職員らは原告を心理的に拘束し監視していたのであるから強制力を行使していたと評価でき、私たちは「監禁」にあたると考えます。

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